第295章

 ボスの意思が固いのを見て取り、高橋もそれ以上は食い下がらず、素直に頷いた。

「分かりました。じゃあ、ボスは仕事を続けてください。企画の件が片付いたら、真っ先に引き継ぎに来ますから」

 前田南は軽く顎を引いて応えた。オフィスのドアが閉まる音が響くと、彼女はようやく顔を上げ、疲労の滲む表情で入り口を見つめた。胸中には、複雑極まりない感情が渦巻いている。

 望月琛が自分を裏切るような真似はしていないと言ったとしても、彼が山下那美を抱き寄せて眠っていた事実は消えない。

 たとえ一線を超えていなくとも、それだけで胸が悪くなるほどの嫌悪感を覚えるには十分だった。

 だが、もし彼の弁解通り、山...

ログインして続きを読む